名古屋地方裁判所 昭和54年(ワ)580号 判決 1981年3月12日
原告
中部カーサービス株式会社
被告
長崎能久
主文
一 被告は、原告に対し、金四一万三、八〇五円及び内金三六万三、八〇五円に対する昭和五三年一二月二三日から、内金五万円に対する昭和五四年三月二〇日からそれぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを四分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し金一三七万二、二七〇円及び内金一二四万七、五二〇円に対する昭和五三年一二月二三日から、内金一二万四、七五〇円に対する昭和五四年三月二〇日からそれぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 第1項につき仮執行宣言。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 事故の発生
(一) 日時 昭和五三年一二月六日午後二時二〇分ころ
(二) 場所 名古屋市千種区末盛地内路上
(三) 事故車 昭和五三年式コスモL小型乗用車(名五九ひ三二三六号)
(四) 右運転者 被告
(五) 態様 被告は、事故車を運転走行中砂利道でブレーキをかけた際、車輪をすべらせて左側側溝に落下させ、事故車を破損させた。
2 責任原因
被告は、事故車を運転中、安全運転義務違反の過失により本件事故をひき起こした。
3 被害内容
事故車は、原告の所有に属していたところ、本件事故により、左フロントサイドフレームが湾曲し、修理後も危険性が残り、事故前の状態に復元することが不可能となつた。
4 損害
(一) 車両損害 金八八万二、〇〇〇円
原告は、事故車と同型車を、昭和五三年一二月二七日金一九四万円で購入することを余儀なくされ、修理後の事故車の下取価格金一〇五万八、〇〇〇円との差額金八八万二、〇〇〇円の損害を受けた。
(二) コスモRE用カーエアコン一式 金一五万七、〇〇〇円
(三) 登録諸費用一式 金二〇万八、五二〇円
(四) 弁護士費用 金一二万四、七五〇円
5 よつて、原告は、被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき本件事故による損害金一三七万二、二七〇円及び内弁護士費用を除く金一二四万七、五二〇円に対する不法行為の日ののちである昭和五三年一二月二三日から、内弁護士費用の金一二万四、七五〇円に対するそののちである昭和五四年三月二〇日から、それぞれ支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実は認める。
3 同3のうち事故車が原告の所有に属していた事実は知らないが、その余の事実は否認する。
4 同4の各事実はすべて否認する。
第三証拠〔略〕
理由
一 事故の発生
請求原因1の事実は当事者間に争いがない。
二 責任原因
同2の事実は当事者間に争いがない。
三 被害内容
成立に争いのない甲第三号証、第四号証の一、二、証人仙石貞夫の証言、原告代表者の尋問の結果によれば、事故車は、本件事故の結果、左フロントサイドフレーム等車体の重要な部分に損傷を受けたこと、事故車は、その後修理されたが、損傷箇所が重要な構造の部分に及んでいたため完全に復旧せず、いわゆる足回りに障害が残つたことを認めることができる。
四 損害
1 前掲各証拠、成立に争いのない甲第一号証、乙第一号証、証人皆木正義の証言により真正な成立を認めることのできる甲第七号証、同証人の証言によれば、事故車には前記のとおり重要な障害が残つていたため、原告は、昭和五三年一二月二八日ころ、株式会社マツダオート名古屋に対し事故車を付属品一式を付して金一五〇万一、五〇〇円で下取りに出したうえ、同社から事故車と全く同型式の新車を代金一九四万円で購入したこと、事故車は、新車の状態で原告に購入され、昭和五三年六月二七日に登録されたもので、本件事故まで一六三日を経ていたこと、事故車にはカーエアコン一式がつけられていたが、原告は同年一二月に右新車購入の際右エアコン一式を付するために金一五万七、〇〇〇円を支出したこと、原告は、右新車購入のため、登録手数料として金一万円、自動車取得税として金八万四、一五〇円の諸費用を支出したこと、修理後事故車を下取した右会社の従業員の中にも、自ら事故車を所有していたならば、買替えをしたであろうとの意見を持つ者があつたことを認めることができる。
2 ところで、交通事故により自動車が損傷を被つた場合において、車体の本質的構造部分に重大な損傷の生じたことが客観的に認められ、被害車両の所有者においてその買替えをすることが社会通念上相当と認められるときは、所有者は、これを売却し、事故当時その価格と売却代金との差額を損害として請求することができると解される(最高裁判所昭和四九年四月一五日民集二八巻三号三八五頁参照)。
右1及び前記三における認定事実によれば、本件事故車は車体の本質的構造部分に重大な損傷を生じたもので、原告が事故車を買い替えることの社会的相当性があると認めることができるから、原告は、事故車の事故前の価値と売却代金との差額分を損害として請求しうると見ることができる。
3 そこで、事故車の事故当時の取引価格について考えてみるに、いわゆる中古車の取引価格は、原則としては、これと同一の車種・年式・型、同程度の使用状態・走行距離等の自動車を中古市場において取得しうるに要する価額によつて定めるべきである(前掲最高裁判所判決参照)が、本件においては事故車は登録後事故に至るまで六か月を経ておらず中古市場で同一条件の車両を購入することはかなり困難であると考えられるうえに、成立に争いのない甲第二号証によつては本件事故時である昭和五三年一二月上旬における本件事故車と同一程度の使用状態、走行距離の同一車種中古車の価格を確定するには足りず、他に右価格を直接認定すべき証拠はないから、結局、右価格は、前記認定のカーエアコン一式の設置費用、自動車取得税、登録手数料を含めた新車購入費から事故時までの使用期間の損耗分を控除して算出するのが相当であると考えられる。(なお、登録諸費用のうち、自動車税、自動車重量税、自賠責保険料は、いずれも車両の使用期間に対応すべきものであるから、損害とはされず、したがつて右購入費の中に含ませるべきではないと解される。)
4 右1の事実によれば、事故車が原告に購入された時期と原告が新たに同型の自動車を購入した時期とは約半年しか経ていないことが明らかであるから、事故車の購入代金、そのカーエアコン一式の代金、その登録費用、自動車取得税も、それぞれ新しい自動車のものと同一額であつたと推認することができる。
ところで、減価償却資産の耐用年数等に関する省令によれば前掲乙第一号証によつて明らかな事故車の車種用途細目についての定額法の償却率は三三・三パーセントであるから、この値を準用して使用期間の損耗分を控除し、事故直前の事故車の価値を算出すると、次式のとおり金一八六万五、三〇五円となる。
(194万円+15万7000円+1万円+8万4150円)×(1-0.333÷365×163)186万5305円
右の金額から前記の下取価格金一五〇万一、五〇〇円を控除すると、原告の損害は金三六万三、八〇五円となる。
(原告は、本件事故による損害として、車両損害の外にカーエアコン一式の代金及び登録諸費用を請求しているところ、これらはいずれも事故車についてのものを主張していると解することができるので、上述のとおりの損害を認定することとする。
なお、念のため付言するに、原告が買い替えた新しい同型車のエアコン一式の代金及び登録諸費用は、その支出によつて原告にその対価的価値が取得されたものと見ることができるから、これを損害と考えることはできない。)
五 弁護士費用
本件事案の内容、審理経過、認容額等に照らすと、原告が被告に対し本件事故による損害として賠償を求めうる弁護士費用の額は金五万円とするのが相当であると認められる。
六 以上によれば、原告の本訴請求は、本件事故による損害金四一万三、八〇五円と内弁護士費用を除く金三六万三、八〇五円に対する不法行為の日ののちである昭和五三年一二月二三日から、内弁護士費用の金五万円に対する右の日ののちである昭和五四年三月二〇日から、それぞれ支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 成田喜達)